サイエンス・イデアだより№51(2010.11月)

今月のテーマ : 熱について

11月も中旬となり、秋の深まりを実感する季節になりました。暖かさが心地よくなり、朝夕は寒さを感じ、暖房が欲しくなります。そんな季節にぴったりのテーマが今月の「熱について」です。暑い季節にはうっとうしくも感じる熱ですが、冬になると恋しくなるものです。

熱もまた、私たちの生活には欠かすことのできないものなのですが、理科のテーマで取り上げると、異質のものと捉えがちです。できるだけ、日常生活にあることを意識しながら、実験をしてみましたが、子ども達の理解はどうだったでしょうか。

実験では火おこし器の体験もしてみました。室内でしたので、実際に火がつくことはなかったのですが、摩擦熱の発生は十分に実感できました。煙が出たり、木が少しこげたりしましたが、実際の発火にはさらに時間がかかるということを体感して、原始の人たちが火を得る、熱を得ることの苦労が少しだけわかりました。

ひとの記憶(忘れるということ)

先々月の続編です。私たちは忘れるということをよくないことと決めつけていないでしょうか。

学校の評価がテストという形でなされ、その多くが記憶力を駆使することを求められた、そんな学校生活の刷り込みが「忘れること=よくないこと」としているのではないでしょうか。

記憶力を鍛え、色々なことを覚えることは決して悪いことではありません。むしろ知識を蓄積し、その知識を駆使して、様々な思考や行動がなされるのですから、記憶は私たちにとってとても大切なことです。

しかし、一方で忘れることも私たちには必要なことなのです。本当に悲しい、辛い体験をするとその時は心身ともに疲れ果てます。大切な人との死別などはその最たるものです。

あるいは肉体的に激しい痛みを経験したら(女性の場合は出産がこれにあてはまります)痛みの記憶はずっと肉体に残るのでしょうか。

精神的にも、肉体的にも痛みが継続すると人間はどうなるでしょうか。とても普通の生活はおくれなくなります。あるいは痛みそのものが継続しなくても、つねに覚えていたら・・・やはり、日常生活には支障をきたします。時間が経過すると共に、その出来事は覚えていても、その時の痛みや辛い体験をあったこととして、過去の記憶とすることで私たちは日常生活に戻っています。

このように、ある種の記憶は忘れる方が私たちにとっては幸せなのです。忘れることができるから、より厳しいことにも挑戦できるのです。生きていくには肉体的にも、精神的にも辛い、痛い体験が多くあります。でもその体験を克服できるのもまた、人間なのです。

若い人たちにとって、今、体験していることはとても辛いことかもしれません。小学生の自殺が報じられることがあると、本当に心が痛みます。今は辛くても、そのことは乗り越えられるのだということを大人が声を大にして、子ども達に伝えていくことがとても大切だと思います。

成功体験だけを語るのではなく、自分の若かった時の失敗や辛い体験を積極的に語ってみるのも、若い命を救うことに繋がっていくのではないかと考えています。

バックナンバー